top of page

(story.20)聖域

時は少し巻き戻り、灯台が明かりを灯す20分ほど前。

「ん〜……やっぱ外れねぇなぁ」

農夫は頭をもたげて言った。背後には焚き火が轟々と燃え、その光を浴びるように、目の前にテルが座っている。
農夫は再度、テルにかせられた手錠の穴に針金を通したが、手錠はびくともしない。

「全く手ごたえがねぇ。こいつはまた上物な錠だな。……なんつって」

「ハァ〜~……」

テルは嘆息した。同時にスラブヤンカに置いてきた光学銃のことを思う。

(あれがあればこんなの簡単に焼き切れるんだが……)

「俺が解錠できないんじゃあ、この村にいるうちはどうにもならないな。バーナーでもあれば話は別なんだが……かくなる上は……」

農夫は、広場の一角で斧を振る男を見た。
男は斧で割った薪を手際よく焚き火に放り込んでいる。
農夫の斧を見る目が本気そうなので、テルは慌ててその場から立ち去った。


祭りは最高潮に達し、最後の催しが始まろうとしていた。
テルはせわしく人が行き来する大通りを抜け、ウッドストック農場にやってきた。
農場にはエレンと長老婆がいた。

「カブの背比べ……大通り踊り……酒飲み対決……恒例行事は一通り終わったかね?」

長老婆はエレンに尋ねた。
エレンはこくりとうなずいた。

「次はいよいよ『儀式(ヒッピートレイル)』ですね」

エレンはどこか憂鬱そうに言った。
広場では、鎖につながれた子鹿が落ち着きなさそうにしている。

「……そういや子どもたちを見かけないね。そろそろ移動しなきゃいけないのに」

長老婆は辺りを見回した。
近くの者に聞くが、誰も見てないという。
テルも首を横に振った。

(そういやゴランとイリーナを見てないな。親父も……)

「どっかで遊んでるんじゃないすか?」

ギターを持った若い村人が大通りを渡りながら言った。
長老婆は杖の先をいじくりながら懸念した。

(まさか、な……)


やがて、村人たちの行進が始まった。広場に集まった村人たちは用意した山車に子鹿を載せると、村の門へと向かった。門を開けると、村を出てどこかへ向かう。

テルがその列についていこうとすると、背後でエレンが手を振った。ついてこないようだ。

エレンは腰の袋からハーブを取り出すと、スースー吸いながら診療所へ入っていった。
他にも、村人の3割は行進に参加せず塀の中に残っていた。どういうわけか、木のネックレスを参加者は首に、不参加者は腰に巻いている。

「どうする?わたしは立場上、嫌でも儀式に参加せざるを得ないないけど、君たちはついてくるかい?」

 

長老婆はテルとジョージに訊いた。


人々は山車を中心に列をなし、松明を持って夜の森を進んだ。
テルたちは列の最後尾につき、揺れる松明を追う。

 

「あの……大丈夫なんですか?」

ジョージが長老婆に尋ねた。
常に温かい表情をしていた長老婆も、この時ばかりは緊張し、頬に汗をかいていた。

「いくら松明があるからって、それでクリーチャーが寄ってこない保証はどこにも……」

「松明もそうだけど、今わたしたちは子鹿を連れとる。クリーチャーと共に森を歩けば襲われないという話はしたかい?」

「エレンから聞きました。でもそれだって絶対安全とは……」

「その通りだよ。こんな危ないことやめるべきだ。だが婿養子を長とするアイザック派はクリーチャーを憎んどる。一種の見せしめや報復のつもりかもしれないね、この儀式は」

長老婆は悲しげに語った。

「こんな事したところで、ミーシャは帰らないというのに……」



一方、診療所ではアンナがゆっくりとベッドから起き上がっていた。
カーネルと話していたミューがすかさず反応するが、アンナは「トイレ」と一言だけ残して部屋を出た。

暗い診療所の廊下をアンナは歩いた。自分はあと数週間の命。そんな虚無感が全身を包み、アンナは半ば放心状態で玄関を目指した。トイレに行くつもりはなかった。ただ、ベッドで寝ていても鬱屈とするだけなので、一度外に出たかった。

「あ……」

玄関の戸が開き、エレンが入ってきた。
背後から月明かりに照らされている。
エレンもどこか憂鬱な顔をしていたが、アンナに気づくと無理に微笑んでみせた。
エレンとのすれ違いざま、アンナはぼそりと呟いた。

「いいね、あんたは」

エレンは振り返ったが、アンナは既に消えていた。


テルたちは道無き道を歩き続けた。
たまに夜鳥の鳴き声がし、そのたびジョージが蹴躓く。それ以外に特に変わったことはない。クリーチャーにも今のところ遭遇していなかった。
案外森は安全な場所なのかもしれないと、テルは思った。目も暗闇に慣れはじめていた。

しかし、歩いて5分ほど経った頃、周囲の景色が変わりはじめていた。

「なんか……緑が濃くなってない?」

ジョージが呟いた。
テルもなんとなく感づいていた。

巨大樹に絡まるツタや、足元の草の量が目に見えて増していた。歩き進むほど倒木に生えるコケはみずみずしくなり、こころなしか夜鳥の鳴き声も増えてきている。まるで、森の生命力が高まっているようだった。

「目的地に近づいてるってことだよ」

長老婆がぼそりと言った。80歳近い高齢でありながら、相変わらず杖を使わずに歩いている。

テルやジョージの方が息切れしているくらいだった。


やがて、フェンスが立つ場所に着いた。フェンスはボロボロに朽ちており、ツタが隙間なく絡みついて壁のようになっている。長年の重みに耐え切れず、倒れているフェンスもいくつかあった。そこを通り、一団はフェンスの向こう側に入る。行進はそこで止まった。

ジョージはひとまずホッとした。
テルは目の前の光景に息を飲んだ。

「見なされ。あれが『聖域』だよ」

長老婆が言った。

フェンスの奥には、大きなコンクリートの建物があった。すっかり朽ち果て、天井を突き破って森で一番の巨大樹がそびえ立っている。壁にツタが這い、建物の倒壊を許さない。
青い月の木洩れ日が建物を照らすその光景は、
とても幻想的だった。



診療室ではカーネルとミューが暇を持て余していた。

「じゃあ、その『聖域』って場所には何かあるのか?」

カーネルが聞いた。
ミューは小さくうなずいた。頬杖をつき、遠い目で窓を見る。

「あたしがこの村に入植したばかりの頃、長老婆に頼んで、興味本位で中に入れさせてらったことがある」

ミューはボーッと月を見ながら言った。

「何かあったのか?」

 

カーネルは期待したが、ミューは首を横に振った。

「なんにも。あんたが興味持ちそうなものはなかったわ。あったのは……グロテスクな実験資料の数々」

カーネルは小さく首をかしげた。
ミューは椅子をカーネルの方に向けた。

「あの建物は元々、旧世紀に建てられた古い研究所なのさ。表向きは生態系の研究をしてたようだね。砂漠の緑化とか……そんなやつ。でも本当に興味深いのは地下にあった研究室さ」

 

カーネルは腕を組んだ。

「裏の研究があったのか」

「えぇ。当時の研究者たちが急いで資料を焼いたのか、データはほとんど残ってなかったけど……生体兵器を研究開発してたんじゃないかと、あたしは睨んでる」

カーネルは目を細めた。

「改造した動物に爆弾や索敵器を積ませたりするやつか?」

「そんな感じ。まぁ……犬の頭部をロボットに移植したりとか、双頭の鷲を創ろうとしたりとか、かなり狂気じみたやつだったけど」

ミューは鼻で笑った。



古い研究所の前には山車が置かれ、その脇に牧師アイザックと息子のピョートルが立った。
ピョートルは白い装束を身に着けていた。

「頑張りなさい。ピョートル祭司」

アイザックは笑顔で囁いた。
山車の上で子鹿が震えている。

人々は山車を囲むように円を作り、地に跪く。
長老婆もジョージもそれに倣ったが、テルだけが構わず突っ立っていた。
ジョージは急いでテルの服を引っぱった。

「この地に住まう森の創造神ポシェトよ、今年も我らに天の恵みをお与えくださったことを感謝いたします……」

ピョートルが何やら唱え始めた。

その間、人々は目を閉じ合掌していた。

やがて礼拝は終わり、銀のナイフが載った盆を持つ少女が前に進み出る。
少女はピョートルの前に跪き、ナイフを差し出した。
ピョートルはそれを掴むと、刃を子鹿の首に添える。すると、何を思ったのか子鹿の震えが止まった。栗色の瞳でジッとピョートルを見つめる。
ピョートルの呼吸は次第に荒くなった。


「ハァ……ハァ……」


ピョートルの中で様々な思いが交錯した。

クリーチャーに愛され、森を歩くことを許されたエレン。許されなかった自分。
エレンは幼い頃から森の案内人として村に貢献してきたが、自分は何もできず塀の中にいるしかなかった。
自分とエレンには明確な差があった。

しかし、この祭司の仕事を完遂すれば、村の中で確固たる地位が築ける。初めて村の男として認められる。
だが、エレンがこの儀式を良しとしていないことも知っていた。

動物を殺すことに関して、ためらいはなかった。生きるために必要なことだと、幼い頃から言い聞かされて育ったからだ。しかし、この選択が後の人生を左右すると思うと、どうしても手が止まった。

「どうしたピョートル?」

たまらずアイザックが急かした。
ピョートルの手は汗ばんでいた。

「やれ!母さんのことを忘れたか?」

母さんを殺したのは鹿じゃない!
エレンが自分の立場ならそう言っただろうとピョートルは思った。次第に、背後で跪く人々がざわめきだす。アイザックは焦った。

 


「ピョートル!」


突如、建物一帯が強烈な光に照らされた。
その場にいた全員が目を閉じる。

「……何!?」

ジョージが呟いた。
光はすぐに消え、元の暗さに戻った。明らかに月光ではなかった。懐中電灯の照明を顔に当てられたような眩しさだった。

巨大樹に止まっていた鳥たちが、どこかへ飛び立った。すると再び光がやってきて、数秒で消えた。
そんなことが数分間繰り返された後、テルはそっと立ち上がって森の奥を見つめた。

「なんか来る……」

テルは、得体の知れない気配を感じ取っていた。
ジョージと長老婆は息を飲む。
やがて、育ちきった茂みを掻き分け、それは現れた。

「……ッ!」

テルは驚嘆した。視線の先には、かつてスラブヤンカで見た鎧が立ち尽くしていた。

「ライカか……今一番会いたくないのが来てしまったね……」

長老婆が額に汗を流した。
すぐさまその場にいる全員に叫ぶ。

「儀式は中止だよ!アイザック、子鹿を返してやりなさい!」

しかしアイザックは頑として動かなかった。左手にしっかりと子鹿の鎖を握り、ライカを睨みつける。

「何の用だ?我々は今、大切な儀式の最中なのだが……後にしてもらえるかな?」

アイザックは言った。
ライカはその場から動かなかった。

「今日ハ……オマエたちと話ヲしにきタ」

ライカは怒りを鎮めながら言った。そして背後を振り返る。

「出てこイ」

ライカが言うと、茂みから子どもたちが数人出てきた。全員べそをかき、ライカの前に並ぶ
周りの大人たちはハッと息を飲んだ。


「ゴラン!」「イリーナ!」

テルの近くにいたフランク夫妻が叫んだ。
幼い子どもたちに紛れ、ゴランとイリーナが小さく縮こまっている。
ゴランは何とか涙を抑えていたが、その分足の震えに気がいっていなかった。
イリーナは顔をシワくちゃにしたまま硬直しており、泣いているのか怒っているのかよくわからなかった。

村の大人たちは怒り狂った。

「お前ッ!どういうつもりだ村に踏み込むとは!ルール違反じゃないのか!?」

「村に……?……ハハハハ」

ライカは錆びた声で高笑いした。
跪いていた人々が続々と立ち上がる。

「何がおかしい!?」

「ワシは人間の巣にナド入ってはおらヌ。オマエたちの子らが森ヲさまよい歩いてイたのだ………さて」

ライカは一人の子どもの服を掴んでつまみ上げた。

「子鹿を解放せンのなら、こちらモ相応の対応ヲせんとナ。そうデなくとも……コイツらは我ラの土地に踏み込んだのダ。タダで返スわけにはいかヌ」

ライカはどこか嬉々としていた。
人々は絶句した。
つまみ上げられた子どもの親が叫んだ。

「ち……ちょっと森に入っただけじゃない!何がそんなに悪いのよ!?」

「そうだ!それ以上何かしてみろ、こちらも黙ってはおらんぞ!」

ライカの纏う雰囲気が変わった。

「〝ちょっと〟……?」

ライカは子どもの服の襟を引き裂かんばかりに握った。やがて服は裂け、子どもは半裸になって地面に落ちた。


「キサマラこそ!自分たちノ領域に少しでもクリーチャーが入ルと、何モしていなくても殺すだろうガ!偉そうなコト言えるのカ!!?」

ライカの放つ怒号と異様な殺気に、人々は思わずたじろいだ。

「……人間トいうのはつくづく自分本位ダ。自分タチが万物の支配者だと勘違いシ、他ヲかえりみない行動ヲする。挙句、その傲慢ガ地上を破壊したトまだわかっていなイ……」

ライカは何とか怒りを鎮め、冷静に話そうとした。
人々はただただ圧倒されていた。

「……ダガ、この森は違ウ。我々クリーチャーこそが森ノ支配者だ。これから話すコトは取引ではナイ、一方的な要求だと思エ」

アイザックの顔が歪んだ。

「まず……オマエたちにふたつの要求ヲする。要求ガ呑めたら子どもヲ解放する。ひとつ目は、子鹿を解放するコト。オマエたちが先ダ。そしてふたつ目ハ……よく聞ケ」

ライカは一間置き、人々は息を飲んだ。

「ふたつ目は、オマエたちガこの森を去るコトだ。もう二度と森に入るコトは許さン。別の居住地ヲ探すのダ」

長老婆が目を見開いた。思わずふらつき、杖をつく。
ジョージがそれを支えた。

「明朝答えヲ訊こう。賢い選択ヲ期待する」

ライカは踵を返し、子どもたちを引き連れ茂みに入っていった。
呆然としていた大人たちは我に返る。

「ふ……ふざけんな!なに勝手なこと言ってる!?」

「人間様に楯つくとはいい度胸だ!」

アイザックはしゃがみ込み、服の内ポケットを漁っていた。
ピョートルがそれに気づき、止めに入る。

「父さん……!」

「ヤツは今一人だ……やるなら今しかない」

アイザックはこっそりと小型拳銃を取り出し、ライカに向けた。奇妙な拳銃だった。引き金がふたつあり、アイザックが片方の引き金を引くと銃口の辺りが帯電する。

「人間よりクリーチャーが上だかなんだから知らんが、この森の最上位は創造神ポシェトだ。神より授かった力に屈しろ、フランケンシュタイン……!」

アイザックは勢いよく引き金に指を当てた。

その時だった。
ライカが突然振り返り、手に持っていた銃でアイザックの拳銃を撃ち抜いた。

「うァ"ッ……!?」

手元の銃が爆発し、アイザックは思わず尻餅をついた。
赤い残像が空中に残り、電流を巻きながら消える。

「あ……!」

それを見て、テルは思わず声を上げた。ライカを指差して叫ぶ。

「おい!それはおれンだ!返せ!!」

(すっかりテルの私物だなぁ……)

ジョージは冷や汗をかきつつ細い目をした。
ライカはテルを一瞥し、無視してアイザックに言い放った。

「ワシが一人だと思うナ。我らハ言葉はなくとも、ひとつの輪ノ中にいる。オマエたちより、遥かに固イ絆で結ばれとる」

暗い森のあちこちから唸り声がした。
人々は山車に詰め寄り固まった。
クリーチャーは姿を見せてなどいなかったが、それがかえって恐怖心を煽る。

風がざわめき、鳥たちが飛び立つ。まるで森全体が敵になったようだった。

気付いた時にはライカは消えていた。

当然子どもたちも。


長老婆は内臓が全て吐き出るのではないかというほど深いため息を吐き、人々をまとめ上げた。

「今ヤツを追うのは危険だ……村に帰ろう。明朝までに決断せねばなるまい」

人々は長老婆に率いられ、元来た道へと引き返した。大半の者がまだ状況を飲み込めていないようだった。

『聖域』には、茫然自失とするアイザックだけが残った。


人々は失意の中、村に帰った。ライカの計らいなのか、村に着くまでクリーチャーに襲われることはなかった。

長老婆は村人全員を広場に集め、事情を説明した。村に残っていた者たちは唖然とした。

「時間がない!明朝までにどうするか決める必要がある。村を去るか否か」

長老婆は声を張り上げた。アイザックが不在のうちに村の意向を固めておきたかった。

アイザック派は皆、似たような意見だった。慣れ親しんだ森を出るのは癪だが、外での新生活に興味がないわけでもなかった。その意向を長老婆に告げると、ソフィア派が一丸となってアイザック派を睨んだ。

「元はと言えばお前たちの儀式がこんな事態を招いたんだ。今回ばかりはこちらの意見を尊重してもらう」

「そうよ!帝国に戻るなんてイヤ!」

「なにか別の道はないのか?」

すると、アイザック派が反論した。

「決めたはずだ。村全体で大きな決断をしなくてはならない場合、多数決で決めると」

「……そうだわ!元々アンタたちはよそ者じゃない!元よりこの森にいた私たちの意見こそ尊重されるべきよ!」

緊迫した空気は一気に加熱した。
長老婆が一喝し、騒ぎを鎮める。

「今は仲間割れしとる場合じゃない!こんな時くらい、祭りの時のように仲良くしたらどうだね?」

村人たちの視線が長老婆に一手に集中する。最終的な判断を下すのは長老婆だった。
長老婆は深々とため息をつき、一同を見渡した。

「去る……しかなかろう。子どもたちのことを考えれば、それ以外に道はあるまい」

エレンは絶句した。ずっと握っていたミューの白衣から手を離し、どこかへ駆けていく。

「エレン!」

ミューは叫んだが、エレンは戻ってこなかった。


 

1時間前とは一転し、村には重い空気が流れていた。
突然訪れた故郷との別れを惜しみ、人々は見慣れた塀の中を行き来した。
そんな中、こっそりと村の門を通る影があった。

「ハァ……ハァ……」

アイザックは息を殺し、村に忍び込んだ。両手には大きな袋が握られている。近くの射撃場に身を隠し、扉を閉める。

 


数時間後、射撃場には10人の男たちが秘密裏に集まっていた。皆、アイザックに忠実なエデン教徒だ。

「牧師、本当にやるんですか?敵は森全体みたいなものですよ……?」

「村の意向は固まっています。村人が一丸となってもクリーチャーを殲滅することは難しいのに……我々だけでできるでしょうか?」

男たちが不安気に聞いた。
アイザックは首を横に振った。

「無論、我々だけでクリーチャーの殲滅は無理だ。最低でもアイザック派全員で狩りを行う。我々はその先鋒に過ぎない」

アイザックは置いてあった袋を開いた。
男たちは目を丸くした。

「せ……『聖域』から持ってこられたのですか……?」

袋には奇妙な銃が10丁ほど入っていた。アイザックが隠し持っていた小型拳銃と似たような形をしている。

「すまないがこれだけしか運べなかった。まず我々が聖域まで行き、対クリーチャー用の銃を確保する」

男たちは互いに向き合った。

「確かに、牧師の一声があればアイザック派のほとんどは参加するでしょうが……」

「お前はたしか、クリーチャーに娘を襲われたな?」

アイザックの言葉で男は目の色を変えた。他の者も何か思い当たる節があるのか、顔をしかめる。

「ヤツらは土地を奪い、農作物を荒らし、……ミーシャを殺した。いつまでもやられっぱなしではダメだ」

アイザックは目の前に並ぶ文明の利器を、苦悶しながら見つめた。

「人間は強い!それを思い知らせる時だ」



~To be continued~

bottom of page