【新世紀黙示録】
(story.19)収穫祭の夜に
その夜、カーネルは一人、ランドクロスの操縦室でダッフルバッグを漁っていた。
地下からずっと持ち歩いてきたものだ。「星の旗」やその他の機材をどかし、カバンの奥底から黒いアタッシュケースを取り出す。
座り込んでケースを開くと、中はノートパソコンのようになっていた。側面のアンテナを伸ばし、付属のヘッドホンを着ける。
「……聞こえるか?」
カーネルはヘッドホンのマイクに囁いた。
しばらくすると男の声が返ってくる。
《おぉ……聞こえてるぞジョン!待ちわびたぞ!7日ぶりか⁉︎》
その男は陽気に、そしてどこか誠実そうに言った。
カーネルは音量を下げた。
「ジョー、あまり無闇に通信をかけるな。不在着信が凄いことになってる」
《ハッハッハ。そんなこと言って、君だって嬉しいんだろ?どうせ四六時中仏頂面して、誰とも腹割って話してないんだろうに》
「俺は元々こんなだ……ふふ、何か急ぎの用でもあったのか?」
ジョーと呼ばれた男はしばらく黙った。
《いやなに……息子のことが気になってな。それだけだ》
「ジョージなら無事だぞ。精神面はそうでもないみたいだが」
《やはりそうか……まぁ海外を渡り歩けばそのうち明るくなるだろう。ちと荒療治だが》
ジョーはため息混じりに言った。
《ところで君たちは今どこにいるんだ?》
カーネルはチラと、床に広げられた古地図を見た。
「ヴォストーク砂漠のはずれにある、ヒッピーウッズという森だ」
《……!》
ジョーはくっくと笑った。
《そうか。じゃ、ミューには会ったのか》
「……あぁ」
《……連れていくのか?あの子を》
カーネルはしばらく黙った。無意識に無精髭を掻く。
「それはあの子自身が決めることだ。無理に連れ出しても意味ないからな」
《そうだな。まぁどっちにせよ、遅かれ早かれ半年後には会うことになるか》
カーネルは車内の壁にもたれかかり、フロントガラスを見上げた。ランドクロスはミューの診療所の前に止めてあり、診療室の窓から明かりが漏れているのが見える。
カーネルはその明かりをしばらく眺めていた。
その夜、ヒッピーウッズの村は大盛り上がりだった。
塀の中のあちこちに張られた蛍光幕が、ランタンの灯りで輝いている。
村の大通りには赤ら顔の村人たちがギターに合わせて踊り、ウッドストック農場では農夫たちが、自分の畑から一番大きなカブを持ってきて大きさを競い合っていた。
広場には若い巨大樹を切り倒して作られた大きな切り株のテーブルがあり、そのテーブルを村人たちが囲んで、ライ麦パンや酒、何かのステーキを頬張っている。
〝2195年1月9日 夜 ヒッピーウッズ
俺は今、巨大樹の森にいる。
今夜は収穫祭だ。村全体が活気付いている。
海外に出てから驚くことばかりだけど、この森もご多分に漏れずそうだった。
この村には、制度とか伝統とか、そういう堅苦しいものが何もないのだ。
食べ物は全て自給自足で、何時に起きてどこで働くなんて決まりもない。今日の祭りだって、料理番とか配膳係とかそんなものなく催されている。皆、自分の料理を善意で振舞っているのだ。
どうもこんな風になったのには、この村の発祥が関わってるみたいだけど詳しくはわからない。
なぜ砂漠のど真ん中にこんな森ができたのかも気になる。一緒に調べるつもりだ。〟
「〝それにしても気持ちのいい場所だ。しばらくここにとどまりたい〟……っと。よし」
ジョージは鉛筆を置き、一息ついて木の椅子にもたれかかった。
広場では、エレンが長老婆の目を盗んで、ライ麦パンを片っ端から回収している。
それを見ながらジョージは、机上の暖かいコーヒーを飲んだ。そしてコーヒーが思ったより熱く、むせかえった。
その頃、広場から離れた暗い場所で、イリーナが首に木のネックレスをかけた女に頬を叩かれていた。
「いたっ!」
イリーナは地面に倒れこんだ。
イリーナの手には鎖が握られており、その鎖は一頭の子鹿の首輪に繋がっている。
「よそから来た子ね。それは『聖域』へのお供え物でしょ⁉︎返しなさい!」
女はイリーナから鎖をひったくった。
ラビが女に食ってかかるが、あえなくはたき落とされる。
イリーナはぶたれた頬に触れ、半泣きになった。
「だって……かわいそうじゃん!」
イリーナは声を絞り出した。
それを見て、女は少し申し訳ない気持ちになった。
「あなたは優しいのね……でも仕方ないの。これは神様にお供えしなきゃいけないんだから」
「……それやる意味あるの?」
イリーナは半ばヤケクソになって訊いた。
女は「当然よ」と答えるが、それ以上は何も言えなかった。
「意味があるかどうかは、あなたが大人になればわかるわ」
女は鎖を引き、嫌がる子鹿を強引に広場へ連れていった。
しばらくして、イリーナはベソをかいたまま広場に向かった。広場に着くと、焚き火の近くに人だかりができていた。
「–––––––そしてオレは市長を倒した。その後ドームの天井は崩れ、空が開かれた」
「「「ウオォォーーーッ!!!」」」
ゴランは村の子どもたちを集め、自慢気に外の世界の冒険譚を騙っていた。
子どもたちは、まだ見ぬ外の世界に胸を躍らせた。
「そのあとどうなったんだ!?ヴラジは平和になったのか!?」
「戦いの後、最初の方に話した二つ頭の鳥が来て街を荒らしたんだ。すると、喰われたオレの父ちゃんが腹を裂いて出てきた。危なかったよ、なんせオレの銃は弾切れで……」
ゴランは言いながら、実際そうだったらいいのになと虚しくなった。
「やっぱおれ畑継ぐのやめて狩人になる!」
「あたしもそうしよっかなぁ〜」
「ぼくも……うおッ!?」
突如、座っている子どもたちの列が割れた。
「……!?」
ゴランは、半ベソになりながら鬼の形相で迫ってくるイリーナに目を丸くした。
「あー……すっきりした」
ジョージは自前のハンカチで手を拭きながら、広場から離れた場所にある便所を出た。大通りの向こうには明るい広場が見える。炎でできた巨大な人影が、巨大樹の幹で踊っていた。
「……ん?」
ジョージは広場へ戻ろうとした。すると、どこからともなく空気を切るような鋭い音がした。診療所の近くの廃墟からだ。その後も音は断続的に聞こえる。
ジョージは腹部のバッグから拳銃を取り出し、音源へと向かった。
廃墟に入ると、中は天井が崩れて吹き抜けになっていた。
内部は射撃場に改装されており、誰かが使っているようだ。
ジョージは物陰に隠れ中を覗いた。
(……テル……?)
テルは一人、黙々と的に向かってボウガンを撃っていた。時々、うーんと唸りながら構えを変えている。しばらくすると、人の気配に気づいて振り返った。
「……誰だ!?」
テルは入り口付近のゴミ箱にボウガンを向けた。
ジョージは手を上げ、そっとそこから現れた。
「俺だよ……何やってんの?」
テルは赤くなった顔をごまかすように、唇を尖らせた。
「……見ての通りだ。悪いな、祭りの時に一人だけ」
「いや、構わないよ。続けて」
ジョージはニヤニヤしながら腕を組んだ。
「地上に出てわかったのは、おれはこの上なく無力ってことだ」
テルはボウガンを構え、引き金を引いた。
放たれた矢は的から大きくそれた。
「ヴラジではさんざん親父に助けられたし、親父やお前たちと別れた後も、いろいろと幸運が重なってなんとか生き延びれた」
テルはボウガンに矢を装填した。
ジョージは黙って話を聞いていた。
「エレンや長老はああ言ってたけど、この森だってそう長居できるわけじゃない。は……帝国はまた来る。それまでに、できる限りのことはするつもりだ」
テルは狙いを定め、引き金を引いた。
矢は的の中心近くに命中した。
「というより……地上に出てからずっと騒がしかったから、たまには静かな場所に一人でいたかっただけだ」
ジョージはうつむいていた。心臓が小さく脈打っている。
(そうだ。ただ海外にいればいいってもんじゃない。自分の危機は自分で回避しないと……何のために故郷を出たんだかわからない)
自分の中に巣食った平和ボケを振り払い、ジョージは入り口付近の棚からボウガンを取った。
「お、俺もやるよ」
ジョージはボウガンを構え、よく狙って矢を放った。元々射撃の筋はいいのか、的の中心近くに命中する。ジョージは思わずほころび、すぐに次の矢を装填する。
「俺は……作家になるんだ。海外を渡り歩いて、いつかその経験を元に冒険小説を書く。それまでは死ねない」
ジョージは再び矢を放った。矢は的からそれたが、ジョージは気にしなかった。
テルは微笑み、ボウガンを構えた。
「おれは自由になる。帝国だろうと何だろうと目の前の障壁を全て倒す。そうすりゃおれはこの世で一番自由だ」
テルが放った矢は的の中心を射ていた。
「じゃあわたしは……世界中の料理を食べることかな」
「「!」」
廃墟の出入り口にエレンが立っていた。微妙に頬が紅潮し、葉っぱのようなものを握っている。足元ではシリウスが心配そうな目でエレンを見ていた。
「頑張るね二人とも……お祭りの時くらいゆっくりすればいいのに」
「ねぇエレン、なに吸ってるの?」
ジョージが顔をひきつらせた。
「ん、これ?ちょっとババ様に叱られちゃってね、嫌なことあると吸うんだ」
エレンはすーすーとハーブを嗅いだ。さらに頬が紅潮し、溶けたような表情になる。うっとりした目でジョージを見つめ、手元のハーブに目を落とした。
「吸う?」
「いや……遠慮しとくよ」
「大丈夫だよ。これミューさんがくれたやつだし……体にいいよ?」
エレンがほれほれとジョージの顔にハーブを押しつけるのを、診療所の窓際からミューは見ていた。
「祭りには行かないのか?」
診察室の戸が開き、カーネルが入ってきた。
ミューは露骨に嫌そうな顔をする。
「あたしゃ騒がしいのは嫌いなんだよ」
「そうか。変わってないな」
カーネルは奥のベッドに歩み寄り、アンナの安否を確認した。
アンナはぐっすりと寝込んでいた。
「そういうあんたこそ行かないのかい?」
「俺だってあぁいうのは苦手だ……知ってるだろう?」
「ハッ、知らないね」
ミューはそっぽを向いた。
カーネルは目を細める。
「なぁ、そう邪険にすることもないだろ。俺4はともかく、何もしてないテルやジョージまで威圧するな。また昔みたいにやればいいじゃないか」
ミューはより一層不機嫌な顔になった。
椅子から立ち上がり、カーネルに詰め寄る。
「……いい?ここいらでハッキリさせとくけど、あたしとあんたは会ったばかりの赤の他人。知り合いなんかじゃないし、あんたの『計画』のことなんて知らない」
それを聞いて、カーネルの眉間にシワが寄った。
「ミュー、話が違うぞ。12年前のことを忘れたわけじゃなかろうな?」
「エレンは渡さないよ!」
ミューはヒステリックに叫び、勢いよく椅子に座った。そのまま深々とため息をつく。
しばらくの沈黙の後、ミューは口を開いた。
「……あの子はこの森で純粋に育った。あの汚い世界に出したくない」
「あれが純粋かね」
カーネルは窓際により、ハーブを嗅いで溶けそうになっているエレンを見た。
ミューは赤面した。
「とにかく!エレンがいようがいまいが、外の世界の情勢は変わらないよ。あんたたちだけで旅を続けりゃいいじゃないか」
「エレンがどうするのかはエレン自身が決めることだ。俺やお前がとやかく言うべきじゃない」
「あんたにゃ関係ないだろ。なんでそう……あたしに色々と言うのさ?」
「お前がエレンにとっての障壁になってるからだ。ミュー」
ミューは目線をそらした。
「エレンはお前を気遣ってる。育ててもらった恩なんだろう。森の中をウロつくことはあっても、お前のいるこの森から決して離れようとはしない」
「あたしに、あんたらの旅に同行しろって言ってんのかい?そうすりゃエレンは……」
「違う。エレンの本心に気づいてやれと言ってるんだ」
ミューは黙ってうつむいた。
しばらく沈黙が続き、ミューは言った。
「エレンはね、基本的にあたしの言いつけは何だって守る。けどね、唯一守らないのは……『森から出るな』ってことなんだよ」
ミューは頬杖をつき、カーネルを見た。
「気づいてるよ……とっくの昔に。気づいてて足止めしてんのさ」
ミューは自嘲気味に笑った。
射撃場では、ジョージとエレンが語らっていた。
「えぇ……森の外ってそんな危険なの?」
エレンが酔いの飛んだ声で聞いた。
ジョージはうなずいた。
「まぁ、俺も海外には出てきたばっかりだから詳しくは知らないけど、たった数日で二度もクリーチャーに襲われたよ」
「……外の世界ってすごく楽しい場所だと思ってた」
エレンはうつむいた。
ジョージは首をかしげた。
「村人の三割は外から入ってきた人たちなんでしょ?その人たちから話は聞かないの?」
「うん……あんまり元いた場所のこと話したがらないから。ただ、『最高の場所だ』って言う人はいた」
「多分それは皮肉だね」
ジョージは言った。
目を丸めるエレンに、黙々とボウガンを撃ち続けていたテルがようやく口を開いた。
「森から出たくないのか?」
テルは額の汗を拭きながら聞いた。
エレンはどこか不満気な顔になる。
「うん。ミューさんに出ちゃだめって言われてるし……」
どこか憂鬱な顔で、エレンは言った。
「そりゃ……酷い話だ」
テルは眉をひそめた。
するとエレンは再びハーブを吸った。顔を上げると、とろんとした表情になっている。
「別にいいんだ。ここ好きだし。一生ここで過ごすことになっても苦じゃないよ」
「エレン……」
ジョージは悲哀に満ちた目をした。
その時、座り込んでいたシリウスの耳がぴんと立った。シリウスは立ち上がり、射撃場を出て行った。出口をくぐる際ちらりとエレンを見たが、エレンたちは会話に夢中でシリウスに気づいていなかった。
射撃場を出ると、シリウスは駆けた。門の近くにある朽ちた自動車を踏み台に塀を飛び越え、夜の森に飛び込む。
南へ向かって数分間走ると、森に沈んだ埠頭に着いた。目の前には静かな海が広がっており、大昔の錆びた船が浮かんでいる。
しばらく海沿いを進むと、遠くに島が見えた。埠頭から島に向かって細い道路が伸びている。
シリウスはその道路を走り抜け、島へと入っていった。
島の中も相変わらず鬱蒼とした森で、あちこちに今にも崩れそうな住居が点在していた。
島は中心へ行くほど盛りあがっており、その頂上には灯台がある。頂上は見晴らしのいい場所で、そこからヒッピーウッズの全貌が望めた。
森は巨大な入り江を囲むように広がっていた。シリウスのいる島は、入り江の中心に浮かんでいる。
島の頂上でシリウスが景色を見ていると、背後の灯台から擦り切れるような声がした。
「おォ……染みる染みる」
シリウスが灯台に入ると、上の見張り部屋から明かりが漏れていた。螺旋階段をのぼり、見張り部屋に入る。部屋には、ソファーでくつろぐ兄シベリアと、うろうろする一頭の鹿。それに、奥の机で何やら体に油を差し込んでいる鎧がいた。
「んン……弟が来たカ。座りなさイ」
ライカはオイル瓶を置き、シリウスの方に振り返った。
鹿が待っていたと言わんばかりにシリウスを見る。
「弟ヨ、人間の巣で子鹿を見ナかったカ?兄は今日一日森にイて知らヌと言うのだガ」
ライカはシリウスに尋ねた。
しばらくして、シリウスは軽く目を泳がせた。
ライカの顔が曇った。顔は兜に隠れ見えなかったが、その表情に影がさしたのが雰囲気でわかった。
「クソ!人間どもめ、マた無益な殺生ヲ!」
ライカは憤慨し、座っていた椅子を蹴り飛ばした。全身の関節が軋む。椅子はレンガの壁にぶつかり粉砕した。
「今度という今度ハもう許せヌ!まだ間に合うハズだ、森の兄弟たちヲ集めよう!」
ライカの一声で、悲壮な顔をしていた鹿は外に飛び出していった。
シベリアも怠そうに起き上がる。
二匹が去った後、部屋にはライカとシリウスが残った。ライカは灯台を出る直前、シリウスを諭した。
「白狼よ、オマエも人間と暮らすノなどヤメて、兄ト共に森へ帰ってきたラどうダ?」
シリウスはライカの兜を見つめた。
それを見たライカは、シリウスに背を向けた。
「ムリか……人間どもに慣らされてシまったオマエたちが、自然に帰るなド」
ライカは憐れんだ。そして棚に置いてあった一丁の銃を掴み、灯台のサーチライトの電源を入れると部屋を去った。
同時刻、暗い森の茂みが海風もないのにガサゴソと揺れていた。
「おおっ!見ろよこれ全部薬草じゃん!持って帰ろうぜ!」
「シーッ!クリーチャーに見つかったらどうすんだ!静かにしろよ」
「……オレ漏らしそう」
「その辺ですれば?」
「一人じゃ無理……ついてきてよ」
「あたし女なんだけど!?」
「オイお前ら……頼むから静かにしてくれ」
ゴランが冷や汗をかき、背後に村の子どもたちに言った。前を向くと、先頭のイリーナがぐんぐんと暗い森を進んでいく。
「おいイリーナ……!戻ろうぜマジで!」
ゴランが言うと、イリーナは立ち止まった。先ほど泣き止んだばかりでまだ鼻が赤い。無言でゴランを睨み、再び前進をはじめる。
「なぁ……なぁって!もう十分進んだろ!」
「村に近いとこじゃすぐに見つかっちゃう。せめてあと5分は歩くから」
「だからって……本当にオレたちが食われたらどうすんだよ⁉︎」
イリーナは「まだそんなこと言ってるの?」と頭上に飛んでいるラビを指差した。
「村の人が、クリーチャーといれば森を歩けるって言ってたでしょ?つまりラビと一緒にいればいいってこと。事実、アタシたちはここまでクリーチャーに襲われずに来れたし」
ゴランは腑に落ちなかった。
イリーナの怒りはおさまっていなかった。
「あのオバハンにわからせてやるんだから!自分の家族がいなくなったらどう思うか……誰が子どもかわかんなくて全員連れてきちゃったけど」
子どもたちの大半は、初めて見る塀の外の世界に夢中だった。
「とにかく、簡単には見つからないとこまで…………え?」
イリーナの足が止まった。
「どうした?」とゴランが尋ねる。
いつの間にか、イリーナたちは沈んだ埠頭に着いていた。
村の子どもたちは、初めて見る大海に絶句していた。
「こんな近くに海があったなんて……」
イリーナは呟いた。
すると、ゴランが埠頭をずっと右に進んだところを指差した。
「イリーナ!……あれ!」
はるか先に、盛りあがった島が見えた。島の頂上には灯台が見え、そこから放たれる赤い光がヒッピーウッズ全域を照らしていた。
~To be continued~