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(story.3)地上へ

《この子が17歳になるまでは、安全な場所で育てる必要があるのです》

「お引き取り下さい」

イワーノフは困惑してモニターに映る男に言った。

「あなた方をここへ招き入れるわけにはいきません。こちらにも事情がありますので……他をあたってください」

《乗り物が故障しまして、これ以上の旅は出来ないのです。何より、子どもの体力が限界でして……》

そう言って男は一向に引こうとしない。
イワーノフは困り果て、男の隣に立つ灰色の瞳の男の子を見た。無表情のままジッとしている。機械のように静かで、とても体力を消耗してるようには見えない。

(まるで人でも殺していそうな目だ)

イワーノフは心の中で呟いた。

《あ、この子は大丈夫です。目つきは悪いですが人を襲ったりはしません。『何があっても怒るな』と言いつけてありますから》

「まるで『本来は凶暴な性格』みたいな言い方ですね」

男は無視して続けた。

《それより、私と交渉しませんか?》

「……交渉?」

《はい。自分はあなた方が持っていないであろう武器を大量に持っています。もちろん他の資源もです。これらと引き換えに自分たちを中へ入れては頂けませんか?》

イワーノフは考えた。IGでは長年限りある資源をリサイクルして生活してきたが、それももう限界にきている。新しい資源が欲かったところだ。

「なるほど。しかし、このIGでは今、食糧危機が起きています。もしここで一生暮らしたいと考えてらっしゃるのなら、あまり期待しない方が……」

《その点に関しては大丈夫です。一生居座るつもりなどありません。12年です、12年後には出て行きますのでご安心を……》

男はゆっくりと男の子の手を握りしめた。

およそ12年前の出来事である。



[AM:2:25]

テルとカーネルが貧困層の中央区に着いた時、大階段の扉は既に破られていた。

大穴の空いた扉から少し離れ、散らばるように大勢の人々がいた。
皆、心配そうに扉の先を見つめている
武器を支給された男たちはすでに富裕層へ攻め込んだのか、この場にはいない。

サイレンが鳴り響き、そこら中の電球の光が、白から点滅する赤に変わった。
一層、張り詰めた空気が流れる。
今頃、富裕層は大騒ぎだろう。


テルは、先ほどから謎の頭痛に見舞われていた。
秘密の部屋で「ALLSTAR.」と書かれた星の旗を見てからだ。
以前同じマークを夢の中で見たが、その夢から目覚めた後にも似たような頭痛を味わった。

(くそ……今日の分の『薬』、忘れていた)


カーネルは皆を見渡した。

「武器を隠してあったとはいえ拳銃30丁程度だ。圧倒的に数が足りない。可能な限り敵を倒し武器を奪え!」

テルはハッとした。

「親父、敵は全員ライフルを持ってるんだぞ?そんな相手にどうやって丸腰で戦うんだ⁉︎今警備隊が攻めてきたらここにいる人達は全員殺されるぞ!?」

事実、周りにいるのは女、子ども、老人、そしてわずかな男たちだけで、誰も銃を持っていない。

その時だった。
ザッザッザっと大階段を下る大勢の足音が聞こえた。大広間に緊張が走る。
テルはカーネルの顔を見上げた。

「まぁ見てろ」

カーネルはまるで何の問題もないかのように言った。


「全員動くな‼︎」


15人ほどの警備隊がライフルを構えて突入してきた。隊長らしき人物が、破壊された扉を見て叫ぶ。

「お前たち……一体何のつもりか知らんが、タダで済むと思うなよ‼︎反乱分子は即刻射殺しろとの命令だ‼︎」

周りの人々は怯えていた。
しかしカーネルだけは違った。

「それならこちらも心置きなくやれる。お前さんたち悪く思うな」

カーネルはニッと笑い、指をパチンと鳴らした。

その瞬間、警備隊の死角や建物の影に隠れていた30人の男たちが一斉に拳銃を構えて立ち上がった。
警備隊も一瞬遅れて気づいたが遅かった。四方八方から100発近い弾丸を浴び、15人とも崩れ落ちた。


「すげぇ……まさかこんなに上手くいくとは」

皆、想像以上の戦果に驚愕していた。

「正直、こんな簡単に成功するとは思ってなかった。こいつらが日頃どれだけ訓練を怠っていたかが伺えるな」

カーネルは死んだ警備員たちに同情した。

「まぁ、これほど大規模な反乱が今まで起きなかったことを考えると、それも仕方ないのかもしれんが」


カーネルたちはまだ息のあった警備員数名にトドメを刺すと、戦利品を丸腰だった者たちに配った。

ライフル15丁、拳銃15丁に元々あった30丁、グレネード10発。

これだけあれば十分だった。これで主戦力である成人男性には全員武器が行き届き、残りは戦えそうな女たちに配られた。

戦闘準備が整った。

「敵はさっき見た通り弱い!」

カーネルは言った。
皆、真剣にカーネルを見ていた。

「だが敵も当然、抵抗してくるだろう。最大の障壁である、管理者直属護衛団との戦闘も予想される。全員が生きて地上へ出ることは出来ない。だが、目の前で仲間が死んでも止まったりするな!一気に富裕層・管理層を突き進み、地上へと到達する!」

カーネルの「進め‼︎」の号令で、武器を持った男たちは顔を引き締め、雄叫びをあげながら階段を駆け上がった。
一方、銃を託された女たちは子どもや老人を背後に、男たちが道を切り開くまで貧困層で待機する手筈だ。

「親父、おれは……?」

テルは唖然としていた。武器を配られなかったのだ。
するとカーネルは、秘密の部屋から持って来たダッフルバッグをテルに投げ渡した。

「お前の仕事はそいつの護衛だ」

つまり荷物番である。

「お……おれはもう大人だ!十分戦える‼︎」

「物資の護衛だって立派な仕事だ。戦闘員になればいいってもんじゃない。大体、今のお前を連れて行ったところで足手纏いになるだけだ」

「ンなの、やってみなきゃわからないだろ!」

「いやわかる。お前はまだ戦争ってもんがどんなものかわかっていない。お前が犬死にするか、代わりに誰かが犠牲になるかだ」

「『わかってない』って……親父こそ銃持って戦うのなんて初めてなんだろ?」

テルは目を細めた。
カーネルも目を細めた。

「……どうだろうな」

カーネルは階段を駆け上がっていった。
テルは納得がいかなかった。

(何でだ!こんな時におれだけノケモノなんてあんまりじゃないか!)

テルはカーネルの足音が聞こえなくなると、階段を踏みしめた。



「富裕層に侵入された⁉︎警備団は何をしてたんですか!」

管理層ではイワーノフが寝巻き姿のまま受話器に叫んでいた。

《それが、どうも武器を隠し持っていたようでして……加えて向こうの指揮官が優秀らしく、先遣隊に至っては装備を丸々奪われたようで、我々警備団だけではどうにも……》

「直属護衛団を出せって言うんですか⁉︎私の身に万が一の事があったらどうするんです!無理でも何でも反乱分子を鎮圧するのがあなた方警備団の仕事でしょ⁉︎」

《…………………》

「ちょ……聞いてるんですか⁉︎」


《あぁ、よく聞こえてるよ管理者様》


「!?……貴様……!」

イワーノフは歯ぎしりした。
カーネルは足元で警備員を踏みつけていた。

「アーウィング……今すぐこの馬鹿げた反乱をやめるんだ!もしやめるなら、特別にあなた方を許して……」

《悪いが、今まで散々貧困層の意見を無視してきたお前さんの交渉に応じるつもりはない》

カーネルは食い気味に言った。

《だが、代わりと言っちゃなんだがいいこと教えてやる。監視カメラでジェネレータールームを覗いてみろ》

「……監視カメラァ?」

イワーノフは左下のモニターを見た。
薄暗い空間に、以前にはなかったはずの赤く点滅する光が三つほど映っていた。

イワーノフは直感的に理解した。

「アーウィング……貴様まさか、『原子力発電室(ジェネレータールーム)』に爆弾を⁉︎」

《そして、その起爆スイッチは俺の手の中だ。イワーノフ、今後もこの地下世界で生きたいのなら黙って俺の言うことを聞くんだ。警備団を止めて俺たちを解放しろ。これは「交渉」ではなく「命令」だ》

「………ッ!」

イワーノフは押し黙った。

(クソ……どうしたらいい⁉︎単純に警備団を送ってもダメ、発電室には爆弾……!)

《八方塞がりだろ?これ以上互いに死人を出さない為にも、大人しく受け入れた方がいい》

「いや……私には義務があるんだ、善良な民の生活を守る義務が。だから貴様の脅迫に従うわけには……」

その時、イワーノフはあることに気がついた。

「……!」

(いや、まだある!敵には決定的な穴が!)

そしてイワーノフは、何かを探す様に監視モニターを片っ端から見回した。



[AM:3:02]

テルは大階段を上りながら考えていた。

(しかしどうする……武器が無い。このまま戦場と化した富裕層に突っ込んだところで、親父の言うとおり犬死にだ……)

そうこう考えているうちに富裕層に着いた。
目の前には大通りが伸びており、その先には噴水を中心に開けた場所がある。
学校へ向かう時ここを通るが、いつも騒がしい出口周辺は既に革新派が制圧したのか人気がない。
やはり貧困層と比べると綺麗だ。そこら中に血だまりがあることを除けば。

(どこかに銃は……)

テルはカーネルに渡されたダッフルバッグを置き、転がる警備員の死体を漁った。

不思議だった。
下にいる人々は初めて見る人間の死体に動揺していた。中には嘔吐する者さえいた。
しかし自分は何ともない。死体を見たのは初めてのはずなのに、まるで見慣れているかのように何も感じなかった。

背後で物音がした。

テルは急いで落ちていたサバイバルナイフを拾い、構えた。
大通りの建物と建物の間の狭い隙間から、それはぬっと現れた。


「……イワン?」


それは、紛れもなくイワンだった。
顔面蒼白で妙に汗をかき、小刻みに震えている。
避難に遅れたのか、隙間に隠れて革新派と警備団の戦闘をやり過ごしていたのだろう。

「テ……テル……」

イワンは歯をガチガチと鳴らした。

「イワン、何があった?何でお前だけこんなとこにいる!?」

「ず……ずっとここに隠れてたのさ。それより今、警備団が革新派を押し始めた!この通りもまた戦場になる。こっちへ来い!この隙間は絶対に見つからないぞ‼︎」

テルは怪しんだ。イワンの様子が何かおかしい。

「……そこへ隠れるより、今のうちに別の場所へ避難した方がよくないか?第一……お前、ずっとそこに隠れてたのなら、何で今の戦局を知ってるんだ?」

イワンがカッと目を見開いた。
全身の震えが大きくなっている。
テルはたじろいだ。


しばしの沈黙の後、イワンは覚悟を決めたように言った。

「テル、お前昨日学校来なかったよな?」

「え?……あぁ」

「管理者が来校演説の時にさ、お前が来てないの見て言ったんだよ。お前の親父さんが革新派の指導者で、『無断で学校をサボった息子も同類』だとか、『革新派はただ社会に反抗したいだけの幼稚な集団』とか……」

「あぁ」

テルは警戒した。イワンの声は上ずっていた。

「皆ムッとしてさ。あ、先生だけは満足気だったけど。それで俺聞いたんだよ……『なぜ地上に夢を持っちゃいけないのか?』って」

イワンは歯を軋ませた。

「そしたら管理者の野郎さ!俺を散々笑った挙句、『それが常識だから』とか言い出してよ!何が『常識だから』だ!そうじゃなくて具体的な理由を言えってんだ!ただ常識だからと押しつけられても、納得できねぇよ……」

テルは驚いた。
イワンは世渡りが上手く、上の者に反抗するような真似だけは絶対にしなかったからだ。

「テル、もしあの場にお前がいたら、お前が代わりに言ってただろう?」

「……かもな」

テルの警戒はなおも解かれない。

「そうだよ……俺はお前のこと馬鹿にしてたよ!流れに身をまかせた方が楽だろって!でも……どこか憧れてたよ。お前みたいになれたらいいなって」

イワンの言葉には熱がこもっていた。
テルには、その熱が伝わってきた。

「だから俺はもう管理者を恐れない。地上へ行こうぜ、テル」

イワンはテルの顔を見て、ハッキリと言った。

「イワン……?」


「走れッ‼︎」


銃声と共にイワンの胸を一発の銃弾が貫いた。
テルの顔を血しぶきが撫でた。



[AM:3:15]

「よし、警備団はあらかた片づけたな。残るは直属護衛団だ!もうすぐ地上に出れるぞ!」

カーネルは言った。

「「「オオオオオッ!!」」」

その時、歓声を切り裂くような銃声が鳴り響いた。元来た方からだ。

(おかしい、革新派の戦闘員は全員ここにいるはずだ)

カーネルは不審に思った。
その時、隣にいた男が撃たれた。

「くそ……まだいるのか!」

カーネルたちは銃を構えた。



テルはただ、呆然と立ちつくしていた。
崩れていくイワンの背後から、10人の武装した集団が現れた。
管理者直属護衛団だ。
しかし、イワンを撃ったのは護衛団ではなかった。

「イワーノフ……ッ!!」

テルは吐き捨てるように言った。

「その子どもには重々言ったんですがね、裏切ったら容赦なく撃つと。まったく、どいつもこいつも反抗的だ」

そう言うと、イワーノフは躊躇なくテルの左足に銃弾を撃ち込んだ。

「ガァッ……‼︎」

痛い、とにかく痛い。流れ出る血がマグマかのように被弾部が灼ける。
テルはその場に倒れ込んだ。

「恨むならそのイワンとかいう子どもを恨みなさい。暗がりにおびき寄せ、手錠をかけて終わりにする予定だったのに……」

イワーノフは淡々と言った。

「これから君を捕獲して、主犯である君のお父さんの前まで連れていきます。もしかすると、この暴動を止めてもらえるかもしれませんからね」

テルの周りを護衛団が取り囲む。
テルは眉間にシワを寄せ、イワーノフと向き合った。

「私には義務がある。善良な市民の生活を守る義務が。あなた方はこの地下で、決められた仕事だけこなしていればいいんです」

テルはイワーノフを睨みつけた。

(こいつがおれたちの自由を奪った!自分たちの私腹を肥やすために‼︎おれはこいつのせいで、何十年もこの狭い地下に閉じ込められたんだ‼︎)

テルは激痛に耐え、息を荒くしながら隣に横たわるイワンを見た。ピクリとも動かない。


腹の底から凄まじい怒りが湧いた。


頭の中で何かがブチンと切れた。
すると、テルの体に奇妙な現象が起こった。
足の痛みが徐々に引いていくのだ。
心なしか、身体中の筋肉が隆起してるようにも見える。
心拍数が上がっていく。

「!?……おい!構えろ‼︎」

テルの異変に気付いた護衛団の一人が叫んだ。

テルの瞳は、赤く点滅していた。
点滅は次第に早くなる。

「麻酔銃を撃て‼︎」

イワーノフはたまらず叫んだ。

黒かった瞳が完全な真紅に変色した。



[AM:3:30]

朦朧とする意識の中、テルは周りの声を聞き取った。

「スゲェ……これを一人でやったのか?」

誰かが驚愕していた。
カーネルたちは最後の警備団を降伏させ、銃声のした方へ駆けつけていた。

「テル……?」

カーネルはテルを抱きかかえた。
テルは全身を返り血に染め、ほとんど体力を使い果たしたように無気力だった。

「テル!何があった⁉︎」

テルは周りを見渡した。イワーノフと護衛団が血だらけで倒れている。

(おれがやったのか……?)


周りの誰かが話していた。

「護衛団が全滅したってことは俺たち……」

「あぁ……勝ったんだ」

「自由だ!!」

(そうか、おれ護衛団と戦ったんだ。何で勝てたんだっけ?……まぁいいか、どうでも)

歓声の中、テルはカーネルの腕の中で崩れていった。



[AM:3:52]

目覚めた時、テルはカーネルの背中にいた。

「お、気がついたか」

周りには大勢の人々がいた。
怪我をした者、荷物を運ぶ者、貧困層で待機していた者、富裕層の者たちもいる。
皆、階段を上りどこかへ向かっている。

「そうか、おれは地上へ行くのか」

テルはカーネルの背中から降りようとしたがやめた。後ろがつっかえてしまう。

(考えてみれば、イワンが死んだのは自分のせいだ。身勝手に行動せず、貧困層でジッとしていればよかったんだ。結果的に親父の言った通り、他人が犠牲になった)


テルたちは管理層に着いた。
「層」と言っても下層二つとは比較にならないほど狭い。目の前には一本道が伸びており、横の壁には部屋のドアがいくつかあるだけだ。
カーネルはイワーノフから拝借したカードキーで奥にある2トンもの自動ドアを開く。

ドアが駆動音をあげ開いた。

その先には、ホコリだらけの錆び付いた空間が広がっていた。
どこか最下層にある発電室に似ている。中心には「EXIT」と書かれた螺旋階段が上へと伸びており、遥か頭上には黒い空が見えた。

「あれが……『空』……?」

人々は「おぉ!」と歓声を上げた。
カーネルを初めに、一人また一人と階段を上っていく。
テルはカーネルから降り、再び痛み出した足を無理矢理動かした。


しばらくして、カーネルが言った。

「テル、覚えてるか?俺たちは昔ここに来たことがある。まだ、お前が5歳くらいの時だ。あの時は可愛げのない子どもだったな」

「………え?」

テルは動揺した。

「俺たちは昔地上にいた。だがお前を安全に成長させる為、地下へと潜った。全て『計画』の為だ」

「親父、なに言って……」

「テル、お前自身には自覚がないだろうが、お前は人類にとって重要な存在なんだ。これからお前には、過酷な運命が待っているはずだ」

カーネルはニッと笑った。
テルは聞きたいことが山ほどあった。
「計画」とは地下を脱出することではなかったのか。
秘密の部屋で見た星のマークは何なのか。
それに、「ALLSTAR.」とは。

しかし、そんな疑問は吹き飛んでしまった。
地上に着いたのだ。



[AM:4:00]

「これが……地上……」

テルは辺りを見渡した。何もない。
火を噴く山も、無尽蔵の塩水も、食べ物のなる木々も、青い空さえも。
ただそこには、一面の暗闇が広がっていた。

(これが、おれたちが目指した『地上』なのか……!?)

テルはカーネルの顔を見上げた。

「……もうすぐのはずだ」

カーネルは静かに言った。


やがて、地平線の彼方からオレンジ色の球体が昇ってきた。
テルを含めた周りの者は皆、その光に見惚れていた。

「日の出だ」

カーネルは懐かしむように呟いた。


太陽の光が地上世界を照らし出す。
テルたちは見晴らしのいい丘に立っていた。
眼前には想像を絶する世界が広がっていた。

乾いた大地、倒壊したビル郡、黒く焼け焦げた木々、汚れた空。
しかしそこには、かつて人類が地上で暮らしていたことを思わせる残り香があった。


カーネルは、秘密の部屋から持ってきたダッフルバッグから「星のマーク」の軍旗を取り出し、それを伸縮するポールに取り付けた。ポールを立て、テルに囁く。

「準備はいいか?」

テルは拳を握り締め、力強く振り返った。

「あぁ!」

カーネルはニッと笑った。

星の旗が大地に刺さり、朝日が「ALLSTAR.」の文字を照らした。



[A.D.2195 / 1 / 2]



【始動編】END

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